人口減少による過疎化と高齢化に直面する我が国の地方においても、生活インフラの弱体化問題は対岸の火事ではない。2010-2020年において、人口の減少率は人口が少ない地域ほど高く、過疎と高齢化は一緒に進むものであることがわかっている。日本国内でも、交通手段を持たないお年寄りらが生鮮食品を食べられなくなる「フードデザート(食の砂漠)」が広がっているようだ。大型店の郊外進出や車社会化で、中心市街地の商店が廃業していることが、「買い物難民」の増加を深刻化させている。
県庁そばの佐賀市城内1丁目。買い物帰りの女性(88)が運転手に一礼し、車を降りてきた。手には、夕食用の鮮魚5匹とトイレットペーパー。週に1回程度、3人の手を借りて病院と買い物に行く。まず整形外科へ息子の妻が車で送り、県庁北のスーパーへはタクシー。その後、スーパー近くの亡夫の会社事務所で社員の営業車を待ち、家まで送ってもらう。 いずれも自宅から半径1キ
ロも離れていないが、ひざが悪く、荷物を抱えると歩けない。「この地区で一人暮らしは無理。一人になれば、施設に移るしかない」 この地区には1985年まで、スーパーがあった。経
営していた女性(78)も今は買い物難民だ。
夕食は宅配弁当サービスを利用。朝、昼は保存の効く粉末スープやイワシ缶詰を食べることも多い。72年に開いた40坪の店は肉や野菜も扱っていた。日に40万円を売り上げたが、夫が体調を崩し、大型郊外店に押されて、店を閉じた。「いかに大事な店だったかと、皆、無くなってから言うんです」 市は昨年度、市部の商店空白地の調査を始めた。赤松小
学校区など県庁周辺で買い物難民が深刻化しているという。
「全国の地方都市で、商店街の空洞化などからフードデザートが広がっている」と茨城キリスト教大学の岩間信之准教授は分析する。水戸市で調べたところ、調査対象者の半数が生鮮食品店まで1キロ以上離れていたという。 この言葉が生まれた90年代のイギリスでは、外国人労働者や低所得層の問題だった。岩間准教授は「一人暮らしの高齢者が、かつて家族と過ごしたリビングにカップめんをため込む姿は悲痛だった。だが、コミュニティーがしっかりしているところは、助け合えている。
行政・地域・企業が知恵を出し合うしかない」と話す。佐賀県は平野が多い。国勢調査によると、人口集中地区居住者は28%(全国平均66%)と低く、居住者は郊外に散らばっている。県によると、世帯あたりの自動車保有台数は80年に0.8台だったが、05年は1.6台で全国平均の1.5倍だ。大型駐車場を備えた店舗が営業するには適している。公共交通機関の利用者も減り、バス会社は不採算路線網を縮小し、車を運転できない高齢者がしわ寄せを受けている。
買い物難民を解消しようと、吉野ケ里町社会福祉協議会は2月、「食品・雑貨お届け事業」を始めた。軽トラックに野菜などを積み、日替わりで40弱の地区を回る。1日に30〜40人が利用し、仏前に供える果物や花も人気があるという。近く保冷車を導入し、肉や魚、牛乳も販売するつもりだ。担当者は「軌道に乗せて、いずれ民間に事業を任せたい」。「移動コンビニ」は、ほろを付けた軽トラック。パンや野菜などの食品、洗剤や石けんなどの日用品を町内のスーパー「マルシェ」の協力で入荷し、値段は同店とほぼ同じとお得感もある。
対象集落を曜日と時間を決めて1週間に2度巡回。商品の販売とともに人が集まる機会をつくり、地域の結びつきを強化することも狙う。巡回では音楽を流して来訪を知らせ、集落の広場に停車して営業。高齢者を中心に、野菜やラーメンなどがよく売れるという。利用した76歳の女性は「車がないから助かる。値段も安くていい」と感謝していた。 だが、道のりは平坦(へいたん)で
はない。
2012年09月05日
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