2015年09月12日

浅野屋3代目 浅野まきさん No5

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新規採用にも毎年力を入れるが、人集めは頭が痛い。製造部門はラインで流す大量生産ではないだけに、職人が一人前に育つのは時間がかかる。「最近は専門学校卒でも正社員になりたがらない人も多い。高卒の人の方が、よほど頑張っている場合もあります。うちではアルバイトでもやる気のある人は店長にして、アルバイト店長も誕生しています」 浅野さんが一緒に働きたい人は、「職業意識のある人」だ。「私たちはパンを作って買っていただいて、日々生活が成り立っている。それを分かって働いてくれる人がいいですね」と言うのだ。

「パンは生き物です。同じように作っても、季節や天気によって出来上がりが違う。長時間発酵をさせ、手間隙かけて作る。製造の担当者は、そのことを分かって作ってほしい。また、販売担当者は、そうして頑張って作っていることを受け止め、一生懸命売ってほしいのです。うっかりパンを落としてしまったら、ポイと捨てるのではなく、『もったいないことをしてごめんなさい』という気持ちを持ってほしいのです」 こういう話をする時の浅野さんの目は、本当に真剣だ。やはり「ものづくり」に関わる人だなあと思う。浅野屋はやはり、製造業なのだ。

「でもこの仕事をしていて、やるせない思いに駆られることもあります。飽食の時代でありながら、一方で世界には満足に食べることもできない子供たちがいますよね」という浅野さん。 毎日多くのお客が訪れ、パンが売れていく。店頭に並ぶ70種類のパンも、トレンドに合わせてめまぐるしくメニューが変わる。東京ミッドタウン店の下は、24時間営業の巨大マーケット。まさに飽食の時代の現場にいるのだ。

浅野屋では、孤児院や教会の施設にパンをプレゼントすることもある。企業としてできることから、社会貢献をしているのだ。最近は環境問題にも気を使う。「ゴミを出す企業として、考えるべきことがたくさんあります。昨年からは、紙の手提げ袋を有料化しました」 レジ袋をもらわない客にポイント加算するサービスも始めたが、運用が難しかった。買うパンは1個でも3個でも1つの袋に入れるが、ある客に「パンを3個買って袋をもらわなかったら、3ポイントつくはずじゃない」と怒られたのだ。

今は、新しいやり方を模索中である。顧客満足度アップとエコロジーの両立に悩む、浅野さんである。 今の生活の中心は仕事。多忙のため、趣味の食べ歩きの機会も減った。「悲しいけれど、趣味は仕事です(笑)。あとは歌舞伎鑑賞。市川海老蔵が好きで、襲名の時はパリと九州以外は全国の公演に行きました。酒井順子さんの『負け犬の遠吠え』を読んだ時、これは私のこと?と思いましたよ」

現在付き合っている恋人はいるが、結婚などの既成概念にとらわれたくない。「彼も食関係の人なので、仕事の悩みの相談にも乗ってくれます。もし結婚したくなったらすればいいし、子供も自然に任せればいいと思っています。でも、今でもこんなに忙しいのに、子育てと両立できるのか。私、あまり器用な方ではないですし…」 「小さな会社ですが、何年かかってもいいから、試行錯誤して理想に近づいていきたい。いつも、『これが終点じゃない』という改善意識を持っていたいのです。

毎日同じように作っても、パンはそのたびに違う。同じパンをずっと買ってくださるお客様をがっかりさせたくない。今日はいいものが作れた、素敵な接客ができた…。社員のみながそんなふうに少しずつ前進していければ…と思っています」まだ浴衣も自分ひとりでは着られない浅野さんだが、夢は着付けを習って、自分で着物を着て歌舞伎に行くことだそうだ。自由が丘、六本木と出店は一段落したが、次は各店舗を回りたいという。和服姿で優雅に歌舞伎鑑賞をする日は、まだ少し先になりそうだ。

【取材雑感】
この取材を通じて、外から来た社長ではなく跡取りだから、そして息子ではなく娘だからこそ経営に成功したというケースを見ると、うれしい気持ちになる。外部の優秀な頭脳は移植できても、家業の根底にある“魂”のようなものは、跡取りでなければ持ち得ないだろう。 また浅野さんは、女性らしいネットワーキング力を企画に生かし、協調性を強みにして父親や社員と良好な関係をつくりながら、果敢に経営改革に乗り出したと言える。日本の「ものづくりの魂」は、現代の跡取り娘たちがしっかりと受け継いでいるのである。

浅野まき(あさの・まき)
1969年東京生まれ。浅野屋2代目、浅野耕太の長女として生まれる。清泉女子大学卒業後、丸紅に入社。紙パルプ部に勤務する。1998年、浅野屋に取締役として入社。2006年7月、代表取締役社長に就任。日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザーの資格を持つ。

 

 

posted by タマラオ at 06:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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