2015年07月27日

「下仁田納豆」が教えてくれる日本の食の未来 No2

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転機が訪れたのは平成5年に帰省したときのこと。
「父から『そろそろ廃業しようと思う』と打ち明けられました。子どもも育って、手も離れたから、もういいだろう、と。それで『「ちょっと待ってくれ。よかったら継がせてもらえないか」』と言ったのが21年前です。継いでしばらくは販路も見つからず、苦しかったですが、幸運にも埼玉の豆腐店の店主の方(埼玉・三之助豆腐/もぎ豆腐店店主、故茂木稔氏)とめぐり逢うことができました。私が勝手に物づくりの師匠とさせてもらっているんですが、その方のお陰で今のような形にできたという感じです。残念ながら師匠は亡くなってしまいましたが、とても粋な人でしたね」

──先代の頃から納豆を包む部材は経木だったんですか?
「そうです。群馬は元々、経木の一大産地なんです。榛名山の北面に生えている赤松の木を使った経木は、たこ焼きの船や包装資材として全国シェアの9割を占めています。私は経木を使うメリットを一石二鳥ならぬ一石五鳥と呼んでいるのですが、まず木の成分が豆の旨味成分を増します。2番目は天然の抗菌作用。3番目に湿度の調節、4番目としては独特の良い香り。さらに燃やしても有害物質が出ない。それを後世に伝えていくというのが、私達のミッションです。

もう一つ言わせてもらうと、きちっとした林業の体制で間伐、適正な管理をしていけば、榛名山を守ることに繋がりますよね。それはやがては海を守ることにも繋がるはずです」

──山の土壌に含まれるフルゴ酸鉄が川を通して海を豊かにしているとの説もあり、森林の適正な管理は今見直されはじめています。
メーカー特製の三角形のダンボール。デザイン性が非常に高い。「ダンボール屋さんが『お宅のためにつくった』と持ち込んでくれたんです。『お宅以外使ってくれるところがない』と。意気に感じましたね」「そうです。納豆は発泡スチロール製などの容器が広まることで、食品工業の世界に組み込まれて、コスト競争などに晒されるようになってしまいました。それはそれで悪いことばかりだとは思いませんが、こういった経木を残していくというのも、うちのコンセプトとしてやらせていただいています」

以前、この連載のなかで「折箱」を扱ったときにも言及したが、適正に木を切ることは環境にいい影響を与える。また資源の有効活用でもある。日本もいいかげんに資源の問題については真剣に考えるべきなのだと思うし、我々ももう少し賢くなる必要がある。昨年、リチャード・ムラー『エネルギー問題入門』(楽工社)という本が出版され、それなりに反響を呼んだ。著書のなかでムラーは各種の温暖化対策と称されるものには極めて否定的なスタンスをとっており、例えば電気自動車などは何の役にも立っていないと証明している。

温暖化対策をするなら、本当に役に立つことをすべき、というのがムラーの主張である。その主張を借りるなら、弁当を折箱に変えたり、納豆のパッケージに経木を使うことは『本当に役に立つこと』ではないだろうか。元々、日本の暮らしはエコシステムを取り入れたものだった。先月、伺った山形で米俵を製造している有限会社「田和楽」では材料となる稲わらを入手するために稲作をしているが、その傍らで大豆(山形はだだ茶豆という有名な在来大豆の産地だ)を育てている。

これは特別なことではなく、大豆の根に含まれる窒素分が米を育てるための肥料になることを経験則的に知っていた先人の知恵だ。大豆で味噌をつくり、また納豆に加工した。それらで米を食べることで、日本の農村の風景、環境は維持されてきたのだ。問題はその循環、繋がりが絶たれたことにあるのだが……さて、下仁田納豆に話を戻そう。

 

 

posted by タマラオ at 06:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記