2014年08月07日

危機で生まれ変わり、素直になれた   No4

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「クルマが好き」と素直に言える
2009年の就任以降、厳しい局面が続きました。トヨタの経営、そしてご自身の存在について見直しましたか。
豊田:「人命第1、地域の復興第2、生産は最後だ」。東日本大地震が起こったときに、思わず出た言葉です。 これこそがトヨタの人材育成ではないかと思うんです。人間というのは、今まで経験したものからしか言葉と行動が出てきません。危機に直面して出てくる言葉は、人材育成の結果です。マニュアルだけで教えられていたら、あのときにそういう言葉は出てこなかった。厳しい上司、本当のことを言う友人、そういう人たちに恵まれてきたからこそ出てきた言葉かなと。

生意気かもしれませんが、自分がそういう教育を受けたように、やっぱり次世代に向けて、そういう教育をしていくことこそが、世のため、トヨタの将来のためだと思っています。

「モリゾウ」としてレーサーの人格を演じています。あえて別のキャラクターを立てることにどのような意味があるのでしょうか。
豊田:もともと、豊田章男としてモータースポーツに参加することに批判のほうが多かった。批判イコール、会社に迷惑を掛けるわけです。ですから、そういうのをいわば隠す、逃げる意味でモリゾウができたような気がしますね。 実は、トヨタに入ってからはクルマ好きだと言うのは少し遠慮していたんです。「創業家だから」と言われるので、素直に言えない自分がいました。 米国の品質問題でいろいろなご心配をお掛けし、米国でトーク番組の「ラリー・キング・ショー」に出演したときのことです。

最後の質問で、「私はクルマが好きなんです」と答え、「I love cars」と訳されたのです。あそこで世論が変わったんです。ああ、このトップはクルマが好きなんだ。なら、きっといいクルマをつくってくれるんじゃないかな。そう思ってくれた瞬間です。米国の公聴会に向かう前「生きて帰ってこいよ」と皆に言われました。もしかしたら社長という職は失うかもしれない。それでも、生きて帰ってこいよ、と。その言葉を背に受けて、素直な自分に生まれ変わって、自然に言葉が出てきた。

素の自分で「クルマを好きだ」と言ってもいいんだと思いました。公聴会のときの自分は、私と同様にトヨタが好きな現場の人のために、トヨタを守る存在だったんです。 だから「もっといいクルマ」と言い続けていますが、そのために自分は感性を磨いているつもりです。それは自分がフィルターだからです。フィルターでクルマは作れないけど、フィルターが汚れているときれいな水は流れない。ですから、自分自身がもっといいクルマのフィルターになろうとすれば、いろいろなクルマに乗ったり人と話をしたりすることが必要なんです。

無人運転は目的ではない
クルマがよくなっている手応えはありますか。
豊田:それは僕が決める話じゃなくて、お客さんとか市場が決めることでしょう。ただ、私はフィルターとしては、最後まで褒めないようにしています。時々、「かっこいいね」とか言っちゃいますけど、それを言ったら止まっちゃいますからね。 あと、社内ではよく「好きか嫌いかだけははっきり言ってくれ」と言われます。「本当は嫌いだった」と、後でぐずぐず言わないで、嫌いだったら止めてください、と。その代わり、後の20年間責任を取ってくださいねと。それがフィルターなんです。

家は「マイホーム」と言います。愛家とは言いませんよね。「愛犬」も「愛妻」もありますが、「愛車」というように「愛」が付く工業製品はクルマ以外にはあまりないんですよ。 この意味はこだわった方がいいと思っているんです。モビリティが今後どう発展していっても、「愛」を付けてもらえる商品を作り続けることが大事です。そこが一番の目的であって、あとは結果じゃないですかね。 ですから、自動運転もやっぱり交通事故死をゼロにすることが究極の目的であって、自動車屋がやるからには無人運転をすることが目的ではないと思います。

無人運転とか、そういうことにこだわればこだわるほど、クルマはどんどんコモディティー化します。そうすると、単に移動手段になってしまい、「愛」が外れると思うんですよ。じゃあ、何が答えなのかはわかりません。それが分かったら苦しまないですよ。 正解はないけど、こだわりたいことはある。私が社長をやっているときに、その答えが出るかというと出ません、きっと。だから、ある引き出しは耕して、ある引き出しには種をまいておく。ある引き出しには収穫前のもあるという状態で次に渡す。

結局、イノベーションいうツールも、人がそれをどうマネージするのかに行き着くような気がしますね。悩んだ、失敗したことを次世代に受け継いで人材を育成する以外、企業が未来永劫、持続的成長をする方法はないんじゃないでしょうか。

 

 

posted by タマラオ at 05:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記