2014年06月20日

なぜ外国人シェフは「日本の包丁」に惚れ込むのか No3

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科学的には金属は最も硬度が得られる温度よりも若干低い温度で加熱することで、粘り(靭性)が得られる。前述した通り、硬いほうが切れ味は良いので、粘りはそれとのトレードオフ、ということになる。その見極めは非常に繊細なものだ。
「和包丁の需要は減ってきましたな。私らが若い頃は注文が一杯入ってきて、ずっと打ってましたもん。そのときはみんな『本焼き』職人さんもええものを使おておりました。もう少し歳をとったら日本刀つくりに専念したい。刀は面白いでっせ」

世界から注目され輸出も増えている和包丁だが、国内の需要は減少傾向にある。

世界からの注目度と反比例するように衰退傾向にある包丁産業々
そうして池田さんがつくりあげたものを、今度は研師が仕上げていく。紹介していただいた森本さんは「現代の名工」にも選ばれている職人である。作業場はさらに狭く、人が一人通ればやっとの通路の両側に、研ぎのための道具が並ぶ。
「ほな、はじめましょう」 森本さんによる研ぎの作業。ここに並んでいる機械もすべて研ぎ師の手によるもの。道具をつくるところから仕事がはじまる 重みのある口調で森本さんは研ぎの工程を一つ
一つ説明してくれる。

研ぎの工程は荒研ぎから仕上げまで20以上にわかれているそうだ。それぞれの工程を経るたびに、包丁は鈍い輝きを増し、美しくなっていく。注目したのはひとつひとつの工程を経るごとに歪みを矯正していくことだ。「鍛冶屋さんがつくってくれたものにはまだ荒いんですな。合わせの場合は金属の性質上、硬いものと柔らかいものが引っ張り合うので、歪みやすいわけです。包丁は同じようにみんな見えますが、鍛冶屋さんによって癖のようなものがあるんやね」

まっすぐな包丁であることは、切れ味のよい包丁の条件である。鍛冶屋の仕事とは対照的に、研師の仕事は繊細な調整作業が繰り返される。ここでも注意されるのは温度だ。砥ぎによる摩擦で熱が刃に伝わってしまうと切れ味に影響をおよぼすという。
最後に砥石で仕上げる。天然の砥石がやはりいいのだが、生産量が減少しているため、人造砥石を使うことが多い、とのこと 「研いでいる面は目には見えないので、それを感じることが
重要。目に見えないから指先のセンサーで感じる、言うことやね」

将来に向けての問題はやはり後継者不足ではないか、と言う。
「うちは幸いなことに継いでくれてますけど、これから少しずつ減っていくんじゃないですか?大昔の話ですが、年に一回、仕事はじめにあわせて包丁を新調するというお客さんがおりましてね。ある時、忙しくて不本意な仕事をしたものを届けてしまったことがあったんですわ。そしたら、その人にはすぐに『なんや、これは!』とすぐにバレまして、えらく反省しました。そういった使い手の付き合いいうのも、なくなりつつあるように思います」

最後の歪みをとる調整。写真には収まっていないが、視線の先は包丁の歪みがわかりやすいように黒い板(紙?)だった。こうして調整された包丁が繊細な日本料理を支えている 研ぎあげた包丁は和泉利器製作所に
運ばれる。ここで柄をつけて完成か、とおもいきやそうではない。ここでも届いた刃のわずかな歪みを矯正していくのだ。信田専務が積み上げられた商品を前に説明してくれた。「研師がなおしてますけど、あわせの包丁はやっぱり歪みが出てくるものなんです。

本焼きはそうでもないんですけど、そこを調整します。それから最低でも一年、長いものだと五年くらい寝かせます。寝かせることで金属を安定させるわけです」卸しメーカーは商品のプロデューサーであるだけではなく、高い品質を守るために細心の注意を払っている。効率が悪い気がするが、分業制は多くの人の手を通ることにより、粗悪な品が出てくるのを防ぐシステムであり、それが堺の包丁の質を保証してきたという側面はある。

 

 

posted by タマラオ at 07:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記